Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “夏茶席”
 


欧米か…じゃなくて、亜熱帯かと思わせるほどもの、
記録的な高い気温が続いた、某近未来の真夏ほどではないけれど。
彼らのいる この夏の京の都もまた、
緑豊かな土地だってのにもかかわらず、
結構な暑さが充満しての、
振り返れば むっちゃ、いやいや、めっさ暑い夏となった。

 「振り返るだけの“あれやこれや”があったかどうかは知らねぇが。」

いやん、そんな厭味は無しの方向で♪

 「そうだぞ? あのおばさんから覗かれてなかったってだけの話だ。」

…葉柱さん、そういう言い方もまた傷つくのですけれど。
(たはは。)
まま、そういう冗談での枕
(ツカミ)はともかく。





暑い夏ではあったれど、
今のところのこのあばら家屋敷にては、
およそ“バテる”という言い回しに縁のある者が一人もいない。
何たって、邪妖の式神様に天狐の坊やに、
まだまだ子供の側に間近いので、一晩寝れば回復出来る溌剌坊やと、
その憑神様は…体力の塊なので言うに及ばず。
一見、華奢な肢体に色白で玲瓏な風貌のお館様がこれまた、
暑いぞこの野郎という、畏れ多くも天へと向けての悪態罵声こそ吐きつつも、
寒くて身体が動かんよりかはマシだと、
邪妖退治に大活躍の、お元気の塊りだったりするものだから。

「こんなにも暑かったのに、疫病が蔓延なんてな騒ぎにはならなかったのは、
 蛭魔が頑張ってくれたからなんでしょう?」
「さてな。」

紫檀もかくやという落ち着いた光沢の出た、
よくよく磨かれた板の間に、御簾を大きく引き上げた間口からは
瑞々しい緑もたわわな爽やかな木立の合間から、
涼しげな滝の振り落ちる絶景が一望できる見晴らしのよさ。
お忍びでのお茶会へと、
山科の滝に間近いそれは涼しい庵房までのご招待を下さった東宮様が、
さすがにお見通しなその上で、にっこり微笑ってのお褒めの言葉を下さっても、
知らん顔して通していたお館様だったのだけれども、

「あのですね? 夕涼みにって いっぱいお出掛けしたですvv」
「お出掛け♪」

そいで、あのあの、蒼くて綺麗な“鬼火”ってゆうのも一杯見たし、
くうは、くうは“ちゅみみょうよう”にかぷって噛みついてやったです♪

「そ、そうなの。」

夏向けのお菓子やら、氷室から取り寄せさせた氷を浮かせた蜜水に
美味しい嬉しいとはしゃいでた勢いもあってか。
夜更けのお出掛けに連れてってもらえたの〜〜〜っと、
きゃっきゃと妙にはしゃいでる ちみちゃい方々のお言いようへ、

 「………この子たちも活躍した訳なんだね。」

事情が通じているからこそ、そっちへの察しもつく桜の宮様。
一見、それは愛らしい和子たちが、
夏の思い出だとばかり、楽しげに口にしているのが、
どれもこれも本物の妖魔退治の顛末なんだろな…と判るからこそ。
少々困ったようなお顔になっての保護者へ訊けば、
それへはさすがに、蛭魔も肩をすくめて見せて。

 「留守番させといても巧妙についてくるだけの知恵がついてな。」

寝苦しいからと夜更かしする機会が増えての、
見慣れぬ闇の中に浮かぶ“錯覚”に怯んでのことか。
はたまた、暑さが人を狂わせての凶行が多かりし反動、
迷う魂が他の季節より桁違いに多くての、地神が落ち着いていられぬか。
夏場は鎮魂浄化も含めての、封印滅殺、邪妖退治をという依頼が自然と増える。
中には気のせいという輩も少なくはなくて、
そういう類いへは金や褒美だけもらっておいて、
何か疚しいことの心当たりでもあるのでは?と、仄めかしておけば、
大概がその通りなのか…そのまま何も言っては来なくなる。
宮中で関係者と顔を合わせても、
いやはやお世話になり申したと、微妙な おもねりのお顔になるばかりだったりし、
それをもっての“霊験あらかた”なんてな風評が立つのは正直笑えたが。

 『…縛羅横臥、禁々如律令っ!』

衣紋の裳裾を勇ましくもはためかせ、
咒符を構えての凛とした立ち姿も勇敢に。
本格的な封印や成敗が必要な邪妖も、この夏は結構暴れて下さっていて。
邪気と向かい合っての真剣本気な咒による戦いを控え、
昼寝をたっぷりの、猪肉も喰ろうての滋養も充填、

『行ってらっしゃいませvv』
『おやかま様、おとと様、いってらっちゃいでしゅvv』

門口に立った あどけないお子様たちから見送られつつ、
実のところは…それへと背を向けたその陰で、

『今宵はどうやってついて来る気かの?
 こないだは忘れ物を届けるのだと牛飼いを言いくるめて、
 わざわざ牛車を仕立てて追っかけて来おったが。』
『つか、徹底的に来てはいかんと言い置かぬのか?』

そんな会話を交わすのが、はや習慣になりつつあったこの夏でもあって。
むしろ面白がっておらぬかと、
そちら様は本気で案じておいでの、黒の侍従殿が眉を寄せての言い返すたび、

 『なんで?』

それは屈託なくも微笑って応じてらしたのもまた、お館様に他ならず。
金髪白面、深まる夜陰の藍の中、くっきり浮かび上がるは端正な横顔。
それをくつくつと愉しげに…ちょっぴり小意地の悪そうな笑い方で染め上げて、

 『セナもくうも、先々では人に仇なす邪妖と相対す立場に立たねばならんのだ。』
 『まあ、それはそうだが。』

片やは蛭魔のような陰陽師として、
片やは神様の聖なるお使いとして、
邪悪な意志の塊を薙ぎ倒す存在にならねばならない和子たちに違いなく。

 『怖や怖やと怯えていないのが頼もしいではないか。』
 『…そういう解釈が出来んのはお前くらいのもんだ。』

まま確かに、あの二人、
今では平然と、若しくは“お手伝いしゅるの”とばかり、
本物の邪妖退治の現場へまで、ついて来れるようにもなっているが。
それは…それぞれがそれぞれなりの事情から、たいそう怖い目に遭ったのを、
奮闘の末に克服したればこそのこと。
双方のそんな場に居合わせたお館様にしてみれば、
あれを克服した上での、覚悟を肝に据えた彼らが、
全くの何も知らぬ上ではしゃいでいるだけではないと判っているから、
ついて来たけりゃついて来いと放置しているだけのこと。

 “無論、何かあったら全力で守ってやるくせにな。”

そっちの心づもりは、だが、ひた隠しにする天の邪鬼。
そんな健気なひねくれ者だから、
トカゲの総帥、黒の式神様もそれ以上の詰言は言えずにいるのだけれど。

 「ところで、蛭魔。
  最近、大きな力のある邪妖さんが君のお屋敷に住み着いてない?」
 「あ?」

紫苑くんが、あ・いや、武者小路の跡取りが、
この夏、またぞろ力を得たらしいって、こっそり教えてくれたんだけど。
そうという彼なりにぼやかした言い方をした桜の宮様が、
続けて言いかかったのが。

 「それって…まさかまさか。」
 「まさかまさか?」

いつもおっとりしている彼にはいっそ珍しいくらいに、
神妙真剣、真摯なお顔になった東宮様が、一体何を案じていらしたかといえば、

 「僕がこっそり通ってる、
  芙蓉の君をよく思わない人からの依頼に遣わす“式神”とかじゃなかろうね。」
 「………違げぇよ。」

つか、こっちが結構忙しかった間に何しとんじゃ東宮様。
いいじゃない、僕まだ后は居ない身なんだし。
それが問題なんだと、先の会議でも厭味を言われとっただろうに。

「大体 何だその芙蓉の君ってのはよ。」
「ナイショvv」

内容は判らないけど何だか楽しそうなお話みたいだと察したか、

 「よいちょ♪」

小さなくうちゃん、高々と結われた亜麻色の髪をふりふり、
とっても“いいによい”のする東宮様のお膝へとよじ登れば。
無礼だとは叱らず、さりとて

 “あ〜あ。
  そんなすると、その“大きな力のある誰かさん”から東宮が妬かれねぇか?”

そっちを案じての…くつくつ苦笑う蛭魔の傍ら、
「こら くう、よさないか。」
アレを怒らすとお前ごとごくりと一呑みされかねねぇぞと、
こちらは既にはらはらしているトカゲの総帥様だったりもしで。

 《 …失敬な奴だの。》
(おおおっ。)

何ならお前から喰っちまってもいいが、
そうなるとそこの白いのが黙ってなかろうしと。
庵房の屋根の上、降りかかる滝からの滴に涼んでおられた誰かさんが苦笑をし。
秋に入っても続くと言われている残暑も何するものぞと、
やはりお元気な彼らであるようです。


ここはとりあえず、

  残暑お見舞い申し上げます



  〜Fine〜 07.8.20.


 *お盆を境にして、何とはなく更新速度が遅れていて申し訳ありません。
  暑さを理由に、どうも怠け癖がついちゃったみたいで、
  何とか頑張ろうと、只今 我が身へ鞭打っておりまする最中でございます。

  めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv お気軽にvv

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